UPDATE: 2021/01/12

ファッション業界に新たなトレンドは生み出せるのか。AI×ローカルとの掛け合わせが可能性を広げる理由

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 2020年10月6日、元町や中華街からも程近い横浜・関内のベンチャー企業成長支援拠点であるYOXO BOX(よくぞボックス)から、オンラインイベントが配信された。Peatix Japan株式会社(以下、Peatix)が「Yokohama Local×Tech Vol.1」と銘打ち、新たなシリーズとして開催するイベントの第一弾である。

 登壇者は、ファッションに特化したAIのSaaS事業を展開する(株)ニューロープ代表の酒井⽒、(株)ロウロウジャパン代表であり横浜中華街発展会協同組合の専務理事でもある⽯河⽒、そして(株)近澤レース店の執行役員と協同組合元町SS会副理事長の二つの役割を担う近澤⽒。
 「ファッションAIを活用して次世代のハマトラを生み出す!」をテーマとし、ナビゲーターのPeatixの畑氏も加わった4名でディスカッションが行われた。

 ファッションとAI、ローカルを掛け合わせることで何ができるのか。かつて「ハマトラ(横浜トラディショナルの略)」と呼ばれ一世を風靡したようなトレンドを、新たに生み出すことはできるのか。

本記事で、当日のディスカッションの内容をお伝えする。

イベントページ:https://y-localtech1.peatix.com/

プロフィール:
酒井 聡 氏
株式会社ニューロープ 代表取締役CEO
ファッションに特化したAIをファッションEC、ブランド、メディア、商社等にSaaS提供するスタートアップ、ニューロープの代表。 リコメンデーションやパーソナライズ、スタイリング提案、トレンド分析、需要予測、オペレーション支援など、ファッションにまつわる技術を幅広く磨き続ける。2018年東洋経済誌の「すごいベンチャー100」選出。

石河 陽一郎 氏
株式会社ロウロウジャパン代表取締役CEO/横浜中華街発展会協同組合専務理事  1972年茅ヶ崎生まれ。関東学院大学卒。輸入雑貨屋、商社などを経て、2000年にロウロウジャパンを設立。シンガポールで育った経験を元にアジアンミックスなレディースのアパレルブランドの商品の企画、製造、販売まで行っている。映画やTVドラマ、TVCMでタレント、歌手、女優の衣装も提供。

近澤 柳 氏
株式会社近澤レース店執行役員 営業・企画統括本部 本部長/協同組合元町SS会 副理事長
横浜元町SS会では、広報宣伝・イベント販促を担当。慶應義塾大学卒。1980年横浜生まれ。

畑 洋一郎 氏
Peatix Japan 株式会社 アカウントパートナーチーム シニアマネージャー横浜サテライトオフィス責任者
製造メーカー系物流会社・医療ベンチャー・建築設計事務所・スタートアップ・外資機械メーカーなどを経て、2015年Peatixに参画。BizDev / Sales Marketing / Operationに従事。イベント集客事業を立ち上げ、プラットフォームを活用した主催者・企業のサポート・タイアップ事業の責任者となる。年間数千のイベント集客・数十のイベント企画を手がける。横浜市在住。

AIにも得手・不得手がある。活用のためにまず知るべきAIの特徴と必要とする環境

畑さん(以下、畑):そもそもAIでどういうことができるのでしょうか。酒井さん、改めて教えていただけますか。

酒井さん(以下、酒井):まず、AIの苦手なこと、得意なことを整理します。 苦手なことは、データのない領域。よく、「ファッションって周期がありますよね。それをAIで当てられないですか」と相談を受けます。でも、既製服が売られるようになってから、まだ100年も経っていない。周期でいうと数回しか発生していないので、そんなに少ないデータを元に「今年これが来る」とぴったり当てることは難しいでしょう。

一方で、トレンドが始まった瞬間に「今後こういう風に広がっていく」という分析をすることは得意です。まさに今当社で、SNS上に投稿されているスナップ写真から、「この人がこの人に影響し、こういう風に広がっている」というのを構造化して分析する、ということに取り組んでいます。

畑:写真をSNSで投稿する人が増えているために、そこが重要なソースになってきているのでしょうか。

酒井:そうですね。テキストでファッションを細部まで説明する人はいないので、写真から「どういう服を着ているのか」を解析してデータ化しています。

畑:「デジタル化」というのがデータ化の一つのきっかけになると思います。石河さんと近澤さんはECサイトと実店舗と持ってらっしゃいますが、売り上げの大体の比率を教えていただけますか。

石河さん(以下、石河):実は、コロナの影響を受ける前と後で変わっています。コロナの前は売り上げの4割が実店舗、3割がECサイト、その他が3割でした。コロナ禍で実店舗とECサイトの割合が逆転して、少し落ち着いた今は同じくらいの割合になっています。

近澤さん(以下、近澤):
当社は全国に直営店が約20店舗あり、ECサイトはAmazonと楽天を使っています。コロナ禍の前は売り上げの1割がECサイト経由でしたが、今は約3割になりました。

畑:急激に伸びた感じですね。きっかけは何だったのでしょうか。

近澤:最大の要因はコロナだと思います。コロナの影響で外に出られない中、我々のメインターゲットの方々のITに対する理解度が上がったのではないか、というのが個人的な分析です。

畑:そういう意味では、AIが分析できるデータが沢山取れる環境になってきている、というのもコロナの影響としてあるのですかね。

酒井:仰るように、実店舗よりもECサイトの方がデータの分析はしやすいので、AIがワークしやすい環境になってきているとは思いますね。

商品づくり、実店舗での売り方―AIとファッションの掛け合わせで出来ること

石河:今回、酒井さんがうちのECサイトも見て、店舗にもお越し頂きましたが、それを踏まえて「こういうことがこんなテクノロジーを使ってできるよ」とご提案できそうなことはありますか。

酒井:例えば、石河さんのお店は柄物を多く扱ってらっしゃると思うのですが、AIに柄を生み出させることも可能です。色んな柄をAIに学習させた後、AIが100とか1000とか一気にパターンを出すので、それをデザイナーが感性で選んで作り込んでいく、という使い方もできます。

近澤:我々の商品のレースの柄にも応用できそうですね。
別の質問になりますが、数字データや画像データの他に、AIはどういうデータが蓄積できるのでしょうか。

酒井:ユーザーの行動データも有用な情報です。この商品を買う人はこういうものが好きな傾向である、という風に類推していくことができます。

近澤:例えば、私が店舗に立っていた時には、お客様が入店するスピードやその時の仕草や一番最初に見る商品などを分析して、一言目になんと声をかけるかを考えていましたが、それをAIで分析することも可能ですか。

酒井:それに近い取り組みをしているベンチャー企業があります。店舗でお客様がどう回っているか、店員さんがどこに待機していたら売れる確率が上がるのか、売り場のどこに何を置いたらいいのか、などを分析しています。

畑:近澤さんの分析、凄いですね。近澤さんをAI化できるといいですね。

近澤:私は入社して半年くらいで、自分に「いらっしゃいませ」という声かけを禁止しました。それは一番簡単なファーストアプローチなので。一番最初に声をかける言葉は、一番その人にマッチした言葉じゃないといけないと思っていました。自分の中にそういうデータを蓄積していましたね。

畑:そういうデータを活かした、売り手側へのAIの活用も可能性がありそうですね。

「ライフスタイル全てのAI化」も。地域でビックデータ化に取り組むことで実現しうる未来

畑:ここからもう少し「ローカル」に話を移していきます。蓄積するデータの枠を各店舗から広げてビックデータ化を図ることは、AIにとってプラスになるのではと思います。石河さんと近澤さんの商店会では、どれくらいの店舗があるのでしょうか。

石河:中華街には500店舗程度あると言われていますが、そのうち400店舗が当組合(横浜中華街発展会協同組合)に加入しています。

近澤:元町では地域に300店舗以上ある中で、200店舗程が協同組合元町SS会員になっています。

畑:そうすると、商店会でデータを蓄積すると、一店舗のみの場合と比べて200、300倍のデータになる。ビッグデータ化が出来ますよね。

酒井:データが増えることで分析できることも増えます。

畑:とはいえ、商店会で一つのECサイトを持つというのは結構大掛かりな話かと思いますが、実際どうでしょうか。

石河:コロナ禍の店舗を救済する一つの策として、商店会のページに店舗のダイレクトリンクを貼って紹介をすることをやっていたのですが、実はこれをきっかけにECサイトを自前で作ることを模索している最中です。

近澤:元町商店街では、私は6年前に一度ECサイトを作ろう、と提案したことがあります。ただ、当時の店舗へのリサーチでは、サイトの運営ができない、もしくは興味がないという声も多かったです。しかし、今の時代はやはりやるべきだと思うので、再度商店会で調査をしています。

さらに言うと、石河さんと、中華街と元町で一緒にやれたらいいよね、という話もしています。実際には色んな障壁があるとは思いますが、元町商店街で買い物をした方が中華街で食事をされる、またその逆のことも、隣町ですから間違いなくあると思います。
それをECサイトでさらに促進することもできると思いますし、実際の人の流れをAIで分析することも出来たら最高ですね。

畑:中華街は飲食店が多いと思うのですが、ファッションだけではなく、衣食住のライフスタイル全てをAI化していくことも考えられるのでしょうか。

酒井:そういう可能性ももちろんありますね。例えば、「こういう服装でこういう髪型の人」というのをパッと認識して、そこからファッションに限らない色んな領域の商品やサービスをお勧めしていく、ということができると思います。

AIで次世代の「ハマトラ」は生み出せるのか。「ローカル」の要素を加える意義とは

畑:最後に、次世代の「ハマトラ」の可能性を考えていきたいと思います。ファッショントレンドは、今まで紙媒体、特にファッション誌が作ってきたところがありますが、その流れは段々薄まってきているように思います。そんな中で、AIでローカル×ファッションのトレンドを作っていく可能性について、どう思いますか。

酒井:出来ることと、出来ないことがあるとは思っています。「ハマトラ」という文化の醸成には長い年月と様々な要素が関わっていて、これをAIで再現することは難しい。ただ、元町や中華街には文化がすでにあるので、ツールとしてそのムーブメントにレバレッジをかけるかたちで貢献できる可能性はあるのではないか、と思います。

畑:以前、トレンド自体が細分化されているという話をされていたと思います。「こういうファッションが好き」という括りは、それを好きな人たちが入れ替わることはあるけど、それ自体が消えることはなく、継続されていく、と。そういう一つの括りとしてできるものが何かと考えたときに、「ローカル」があるのかな、と考えたのですね。

「ハマトラ」は横浜で括ることでトラディショナルの流れができましたし、「下北沢×古着」という例もあります。そういう風に組み合わせによって新しいものができてくる、「横浜」を足すことで面白さが出てくる、というようなことが、元町や中華街でもできると面白いのではないでしょうか。


 最後に、視聴者から「これからのファッション業界に必要なこと」について質問が寄せられた。
「絶対数としてファッションは売れなくなるであろう」という前提の中で、今後必要になるのは「『高くても、好きだから買いたい』と思える商品づくり=『ニッチ化』」ではないか。製品の平準化のためにAIのデータ分析が使われる一面もあるが、「ニッチ化」していくこともまた、AIによって実現できる。その方向性を決めるのは、AIの使い手ではないか。そんな議論が交わされた。

 あくまで今日のイベントはきっかけにすぎない、と畑氏はいう。今後、元町や中華街から新たな動きが生まれることへの期待が高まる。

アーカイブ動画:https://youtu.be/O9yoesQgjTI
株式会社ニューロープ:https://www.newrope.biz/
株式会社ロウロウジャパン:https://www.rourou.com/
株式会社近澤レース店:https://www.chikazawa-lace.com/

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