UPDATE: 2019/12/24

横浜みなとみらいでイノベーションエコシステムを築く利点とは

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 10月25日、横浜ガジェットまつり2019のトークイベント「スタートアップと大企業クロスピッチ 新規事業の本気トーク」が「資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)」で開催された。10月31日に開設された関内のベンチャー拠点「YOXO BOX(よくぞボックス)」は、エンジニアや起業家の人材交流の場としての活用が期待されている。トークイベントでは、京急、資生堂、富士ゼロックスといった横浜に拠点を置く大手企業とスタートアップの起業家が、お互いのイノベーション施策や技術、サービスを語るプレゼン合戦が行なわれた。

 スタートアップ側の登壇者は、株式会社コレッド代表取締役 中里智章氏、株式会社CODE Meee代表取締役の太田賢司氏、株式会社テクノラボ 代表取締役社長の林光邦氏の3名。対する大企業側は、株式会社資生堂R&D戦略部 R&D戦略Gマネージャーの中西裕子氏、京浜急行電鉄株式会社 新規事業企画室の橋本雄太氏、富士ゼロックス株式会社 AIS事業本部シニアコンサルタントの堀内一永氏の3名が登壇。モデレーターはASCII STARTUPのガチ鈴木が務めた。

研究室の閉じた世界から、生活者目線の商品開発へ

 最初の登壇者は、株式会社資生堂R&D戦略部 R&D戦略Gマネージャーの中西裕子氏。

 株式会社資生堂R&D戦略部 R&D戦略G 中西裕子マネージャー

 資生堂では、「ビューティーイノベーションでよりよい世界を」をミッションに掲げ、多様化する美の価値観、ニーズを捉えて、人々に自信と勇気を与え、喜びや幸せをもたらすイノベーションに挑戦している。

 こうしたイノベーションを起こす拠点として、資生堂の研究施設「資生堂グローバルイノベーションセンター」を横浜みなとみらいに移転したのは3つの狙いがある。1つは、世界市場への展開。2つ目は生活者との共創。3つ目はファッション・トレンドに触れることだ。そのため、郊外の研究施設ではなく、商業・文化が集まり、生活者との接点が多い横浜みなとみらいが選ばれたという。

 その研究拠点で開始されたオープンイノベーションのプログラム「fibona(フィボナ)」は、1)スタートアップ企業とのコラボレーション、2)生活者とのコラボレーション、3)スピード感のあるβ版の市場投入、そして4)新たな研究風土醸成の4つのテーマに取り組んでいる。

 スタートアップとの共創も活動の1つのテーマであるオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」を実施

移動インフラから生活者のニーズに応える、京急のオープンイノベーション

 2番目の登壇企業は、京浜急行電鉄株式会社の橋本雄太氏。

 京浜急行電鉄株式会社 新規事業企画室 橋本雄太氏

 京急グループでは、交通事業を軸として、不動産、リテール、レジャーなどの事業を展開しているが、少子高齢化やデジタルテクノロジーの発展によるビジネス環境の複雑化で、従来の鉄道会社のビジネスモデルでは対応が難しくなってきている。

 そこで京急グループでは、「モビリティを軸とした豊かなライフスタイルの創出」をビジョンに掲げて、オープンイノベーションを進めている。具体的には、京急の持つ鉄道インフラをはじめとするリアルなアセットと顧客接点を活かし、ユーザーである生活者の多様なニーズに合わせてスタートアップとともに新しいサービスやコンテンツを開発することだ。

 オープンイノベーションへの取り組みとして、スタートアップとの事業共創プログラム「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」を2017年から2期に渡り実施し、昨年度は遊休ヘリコプターのシェアリングサービスや観光客向けのAIチャットボットなど、5件のスタートアップを採択し、沿線における社会実装を進めている。また、オープンイノベーション拠点として「AND ON SHINAGAWA」を開設し、スタートアップのみならず、大企業などとの交流を進めている。

 京急のオープンイノベーション戦略として、アクセラレータープログラムの実施、
イノベーション拠点「AND ON SHINAGAWA」の開設、投資(CVC)事業などを展開

スタートアップとの企画段階からの議論で事業価値はより高められる

 3社目の富士ゼロックス株式会社 堀内一永氏は、大企業のコンサルティングをしている立場から「共創に期待すること」をテーマに、スタートアップは大企業の資産をどのように活用してくべきかを解説した。

 富士ゼロックスでは、働きやすい環境をつくるためのコンサルティング事業を展開している。社会的なイノベーション経営の加速は、リーマンショック後の2008年頃から始まり、企業による価値創造から、顧客の声を聞きながらサービスをつくることが求められるようになった。

 さらに2014年以降、消費サイクルの短命化、グローバル化、消費者ニーズの多様化などにより、従来の大量生産、自前主義の経営では立ち行かなくなったことが、大企業がオープンイノベーションを必要としている理由だ。スタートアップは、こうした大企業側の視点に立つことが大企業の経営資源をうまく使うポイントになりそうだ。

 富士ゼロックス株式会社 AIS事業本部シニアコンサルタント 堀内一永氏

 ビジネスは、従来のPDCAアプローチから、探索的に結果を見出すOODA(Orient、Observe、Decide、Act)アプローチへと移行しつつあるが、大企業では、社員の知識や経験、関係性の不足、既存事業との両立、リスクや失敗への寛容性、組織評価やマネジメントの違いなどから、適応が難しい。スタートアップとの共創で特に堀内氏が期待しているのは、OODAのObserve→Orientの部分だ。大企業内の社員とスタートアップが対等な関係で知識や経験を補い合うことで、よりインパクトのある魅力的な事業の企画を実現できるのではないか、と提案した。

 大企業は、PDCAからOODAアプローチへの移行が難しい

みなとみらいでイノベーションエコシステムを築くメリットは?

 続いて、株式会社コレッド代表取締役の中里智章氏、株式会社CODE Meee代表取締役の太田賢司氏、株式会社テクノラボ 代表取締役社長の林光邦氏が加わり、ディスカッション形式で、横浜みなとみらいでどのように新規事業を共創していくのかを掘り下げていく。まず、みなとみらいならではのイノベーションエコシステムの利点を聞いた。

 スタートアップから大企業側へ質問

橋本氏(以下、敬称略):エコシステムで大事なのは資金、人材、拠点、コミュニティの4つだと思います。みなとみらいは、大企業の研究開発拠点があることから、高い技術をもつ人材が豊富。拠点、コミュニティも徐々に出来つつある。課題は資金。まだ、みなとみらいには、大型の出資をしてくれる投資家が少ない。例えば、みなとみらいの大企業が共同でファンドをつくり、スタートアップに投資をしていくことができたら面白いのではないでしょうか。

中西氏(以下、敬称略):横浜ならでは感をどう形成するか、ブランディングが重要だと思う。横浜市がここまで支援してくれているので、法律や規制の観点では横浜市にサポートいただきながら、実際にアクションを起こしていきたいです。

堀内氏(以下、敬称略):魅力をつくることによって新しい人や企業がどんどん入ってくるなか、元からいる人や企業がどこまでがんばっていけるのか、を一緒に考えていきたい。制度を変えるだけでなく、一緒にやることによってどこまでこの地区を発展できるのか。その仮説をもちたいと思っています。

 株式会社テクノラボ 代表取締役社長の林光邦氏

林氏(以下、敬称略):大企業と一緒に仕事をすることの難しさは、中小企業やベンチャーのスピード感との違いです。とくに資金面でベンチャーは長い時間をかけられない。これはどうやって解消していくのでしょうか?

中西:資生堂では、判断に最短でどのくらいの時間がかかるのかを事前にご提示するようにしつつ、できる限り期間を短縮するように努めています。8月末に採択した協業事業では、2ヵ月以内に企画を決定し、すぐに決済が下りるように努力をさせていただいております。

橋本:その点は大企業がスタートアップというものをしっかり理解しないといけないと思っています。特に既存の事業部門とは世界感があまりにも違うので、考えが折り合わないこともままあります。事業部門に丸投げせず、まずは私たちのようにスタートアップのことを理解した担当者が伴走し、事業を進めていくようにしています。当社がアクセラレータープログラムを実施している理由は、期間が決まっているなかで予算とゴールを決めて、スピード感を持ってプロジェクトを進めていくことができる利点があるからです。

堀内:アクセラレーションプログラムの中で考えるのもひとつの手。それ以外の方法として、スタートアップから大企業に企画を持ち込む場合は、交渉相手としてライトパーソンを見つけるのが大事です。企業側がまさに検討しているものと一致すれば、すぐに資金が出る可能性がある。ただし、大企業が変わろうとしている内容でないと難しいので、ここは勝負ですね。

 株式会社コレッド代表取締役 中里智章氏

中里氏:リソースのかけ方、人のかけ方にも温度差を感じます。企画は面白いね、と言っていただいても、プロジェクトが始まると企業側の担当者が不在で、開発から判断まですべてをスタートアップ側でやらなくてはならないパターンもあります。大企業側として、どのようなリソースのかけ方を想定されていますか?

堀内:企業は、研修であれば多くの部署が参加するが、事業というと失敗する疑念もあり、なかなか人材を出したがらない。そこで、壮大な研修という形でやってみるのもひとつの方法かもしれません。

橋本:当社の場合、プログラム中はかなり密にコミュニケーションをとるようにしています。オンラインではSlackを使って深夜までやりとりが及ぶこともありますし、週1でオフラインの打ち合わせを設けております。役割分担としては、当社の強みはリアルなアセットと顧客接点を持っていることなので、そこをいかに引っ張ってこられるか。京急グループとして、多くの利害関係者がいるので、その調整を事務局がやり、スタートアップは事業をスケールさせることに専念してもらいたいと考えています。

中西:共創が成功するかどうかは、コミュニケーションと役割分担がすべてですね。大企業に対して、言いづらい環境を作ってはいけないと思っています。役割分担については、最初に明確に話し合いをしました。コミュニケーションもメールやSlackのほかに、何度となくフェイスtoフェイスでお会いしてよく話をするようにしています。

 株式会社CODE Meee代表取締役 太田賢司氏

太田氏(以下、敬称略):実際にみなとみらいに拠点を構えられて発見した、みなとみらいならではの魅力をお伺いしたい。

中西:歩いて行けるところに、美術館、スタジアム、コンサートホールがある。こんなに文化に触れられる場所は都内にも少ないのではないか、というのがこの場所を選んだ理由です。その風土のおかげか、この施設内でカルチャー系のイベントを開催したときに参加する社員が増えています。横浜駅を通って通勤するので、女性のファッションにも着目する研究員が増えてきたのは大きな収穫です。ただ、このような変化が実際の研究活動に影響を及ぼすには時間を要すると思うので、ゆっくりその変化を見守りたいと思います。

橋本:京急はサービス業の集合体なので、研究開発メーカーの方々とは縁遠かった。しかし、モビリティがデジタル化していく中で、これからは鉄道や不動産といったハードウェアに、ソフトウェアや体験価値をどう組み合わせていけるかが重要で、現代のモノづくりに通じる発想が必要になってくると思います。こうした取り組みを先端で取り組まれている企業のR&D拠点やスタートアップの方々と、立地を生かして関係性を築いていけることを期待しています。

堀内:コンサル目線では、東京のスピード感が1、名古屋が2とすると、横浜は1.5くらい。忙しすぎず、適度にリフレッシュもでき、R&Dとっては集中しやすい環境だと思います。横浜の地に根付く企業も多いので、複数の企業が一緒に活動でき、時間をかけて関係性を育てられることも魅力ですね。

 後半のスタートアップ3社によるピッチでは、来場者に「好き!」「共創希望」「導入したい」「一度話がしたい」の4つの札が配られ、ピッチ後に札を上げてもらう、というルールを導入。会場を巻き込んでのプレゼン大会となった。

ハードウェアを少量で生産、販売する新しい市場をつくる

 テクノラボは、プラスチック筐体のデザインから生産までを受託開発している。特徴は、プロダクトのデザインから設計、金型製造、組み立てまでのサービスをモジュール化/パッケージ化し、小ロットに対応していること。

 スタートアップが試作品を製品化するうえで、最初にぶつかる壁が金型製造にかかる時間と費用だ。テクノラボの場合、価格を定価表示しているので、見積もりのやり取りがいらず、スピーディーな発注が可能。また、簡易金型を用いることで初期費用を抑えられる。さらに、設備を複数顧客とシェアリングすることで小ロットでの生産を実現している。

 自社基準で設備をシェアリングすることで常に一定の品質が担保される

 テクノラボでは、より魅力的な製品の形に落とし込むためのデザインと設計のサービスも提供しており、アイデアと技術をもつスタートアップにとって心強い。多様化するニーズに応えて、スタートアップや個人がハードウェア製品を少量生産販売できる市場を構築していくのが同社の目標だ。現在は、クラウドファンディングのCAMPFIRE‎と提携し、製品の販売までをつなげていく計画だ。

 個人でもモノを作って売れる少量生産販売(LVPP)市場を日本から世界へ
 
 観客の大多数から「好き!」の札が上がった。共創希望の札もちらほら

家庭から工場までユニークなIoT機器を企画開発

 コレッドは、2015年に設立したIoT製品の企画開発メーカー。2016年に初のIoT製品として、お風呂用エクササイズバイク「furost」(フロスト)を開発。お風呂のなかでペダルをこぐと、脱衣所のスマホアプリで運動量のデータが計測できるというものだが、2016年から3年間、横浜ガジェット祭りに展示したところ、IoT開発案件の相談が増えたという。

 なかでもいちばん多い相談が工場のIoT化だ。労働人口の減少、賃金の上昇、品質向上ニーズの拡大から、工場内でIoT機器の導入が進んでいる。コレッドでは、工場向けのIoTサービスとして、データ収集IoTと屋内測位IoTシステムを開発。

 データ収集IoTシステムは、データを収集するアンテナ一体型のセンシングIoTユニットとPCでの管理画面の開発で構成し、工場内での設置・運用のサポートまでを提供している。屋内測位IoTシステムは、カード型のビーコンを用いて従業員やモノの所在確認に導入されている。

 今後も企画から量産までのモノづくりを主軸として、いろいろな企業と組んで製品づくりを進めていきたいそうだ。

 工場内のIoT化に、現場の安全や品質を確認するためのデータ収集IoTと、従業員やモノの場所を管理するための屋外測位IoTシステムを提供
  
 細部にこだわる製品づくりと技術の高さに会場から好評価。資生堂の中西氏からは「一度、話がしたい」の札が上がった

ヘルスケア視点で香りを調合し、健康経営から空間演出まで

 CODE Meeeは、AIとSNSと連携して個人のストレスを緩和するアロマが届くサービス「コード ミーワン」を提供している。具体的には、ウェブサイトから登録時に、自分の抱えているストレス課題や理想の気分、好みの香りを選択。さらにTwitterと連携することで、個人の投稿内容からAIが精神状態を分析し、その結果に基づいて、3000以上の調合パターンから最適な香りを提案する、という仕組みだ。

 月額1800円の定期購買モデルで、同じ香りを継続して注文することも、途中で変更することも可能。コードミーワンは香水ではなく、自分のメンタルを支えるためのヘルスケア商品として位置付けており、ユーザーからは使い始めたらタバコが減った、という声もあるそうだ。

 AIによるSNS分析から最適なアロマを作成

 個人だけでなく、企業向けにもオフィスやホテル、ライブの演出などに最適な香りを調合するサービスも展開している。東急不動産での会議室への導入では、ブレスト、提案、意思決定など会議の目的に合わせたアロマ処方で空間を演出している。

 企業のブランディングとして、空間演出に加えて名刺にも香りを使う取り組みを始めている

 健康経営が推進されるなか、従来の喫煙所に代わり、多くの人が手軽にリフレッシュできる方法としても期待できそうだ。来場者からも「導入したい」「一度、話がしたい」の札が多く上がっていた。

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