UPDATE: 2020/07/01

理屈ではなく横浜が好き ここにベンチャーが活発化する場をつくりたい

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 有限責任監査法人トーマツ横浜事務所の村田 茂雄氏は、2017年からベンチャー支援に取り組んでおり、横浜ベンチャーピッチ、YOXO BOXの運営にも携わっている。この4年間の横浜のベンチャーを取り巻く環境の変化、今後の取り組みについてお話を伺った。


有限責任監査法人トーマツ横浜事務所 村田 茂雄氏

■横浜のブランド力とベンチャーの世界観にひかれてベンチャー支援へ

――まずは経歴をお伺いできますか。

 2005年3月に大学を卒業後、金融機関に約10年間勤務して、2014年10月に有限責任監査法人トーマツに入社しました。当初は、神奈川県内の金融機関の事業再生業務を担当しており、本格的にベンチャー支援に携わるようになったのは、2017年1月からです。

 トーマツとしては、2014年10月から横浜ベンチャーピッチを横浜市から受託しており、社内にそういう業務があることは知っていました。裏方のサポートに付く機会もあり、ベンチャーという、世の中を変えようとしている会社の支援に関わるのは面白そうだな、と思い、自分から希望してジョインした形です。

 私自身は小田原市の出身で、子供の頃から横浜には純粋に憧れを持っていました。東京と横浜は、同じくらいの規模の大都市だと捉えていて。おそらく地方の人から見ても、そのようなイメージがあるのではないでしょうか。しかし、神奈川と東京の両方でコンサルティング業務を経験すると、横浜は東京に比べものにならないほど、圧倒的な差があることを知ったのです。

 横浜は東京に近いゆえに、ヒトもモノもカネも情報も東京に集まってしまう。必要であれば、東京に行けばいい、という考え方もあるでしょう。確かに、東京のほうが便利だし、何もかもが揃っているけれど、それでも私は横浜が好き。それこそ、横浜のブランド力ではないでしょうか。なぜ、ルイ・ヴィトンが好きなのか、というようなもので、横浜には理屈だけでは語れない、直感的な魅力があると思います。

――ベンチャー支援には以前から魅力を感じていたとのことですが、実際に関わることになってから、認識に変化はありましたか?

 まず、中小企業でも特にベンチャーと言われる組織は、これまでにない新しい分野を切り拓くためにリスクを背負ってでもチャレンジする会社です。当然に、世の中にないものを生み出すので前例がなく、それが世の中に受け入れられるかもわからない中で事業を行なうため、よほど思いが強くないとできません。支援をする側としても、その点を意識するようにしています。

 私がベンチャー支援を始めたばかりの頃は、ベンチャーという言葉の認識が浅く、一般的な企業と同じ認識で捉えていました。私は以前から中小企業診断士として活動もしていたので、今振り返ればベンチャーの支援もしていたのですが、当時は、一般的な企業とベンチャーの違いを認識せず、同じように接していました。横浜界隈でも私と同じような認識でベンチャーという言葉すらも全然浸透していない状況で、技術力は優れていて世の中にも通じる企業が多いのですが、リスクをとって新しい分野を開拓していこうという感じよりは、事業が受託中心であったり、無理のない範囲でチャレンジしたりするような状況でした。

 けれども実際に東京のベンチャー、大企業、ベンチャーキャピタルの方々と関わるようになると、大きなベンチャーの世界感があることに改めて気付きました。事業の目的や成長の仕方、思い、考え方、取り組み、いろいろな面が大きく異なるので、支援すべき内容もそれに合わせて変えなくてはいけない、と考えるようになりました。

■アクセラレーションプログラムを転機にベンチャーの認識が変わってきた

――横浜のベンチャーが盛り上がってきたのはいつ頃から?

 転換期は、2017年に神奈川県が「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(通称:KSAP)」を始めてからです。それ以前から川崎と横浜では、それぞれベンチャー支援の取り組みがありましたが、KSAPを機に、一気に認識が広がったように思います。

 KSAPは、神奈川県内の有望ベンチャー企業に対して、事業拡大の集中支援をする5ヵ月間のプログラムです。当初、神奈川県側の事業構想は、県内各地で無料相談会をする内容でした。それに対して、ベンチャー企業を短期集中して支援するアクセラレーションプログラムを提案したところ、受け入れてもらえたのが大きかったですね。

 最初は、横浜市のベンチャーからの応募が少なく、1年目の採択企業5社のうち、横浜は2社、藤沢市2社、大和市1社。2年目以降からは、横浜が大多数を占めるようになっています。東京と違って地方では、自治体の取り組みが、そのエリアの企業の活動に大きく影響します。横浜ベンチャーピッチからアクセラレーションプログラムへつながり、ベンチャー支援が再認識してもらえた。デモデイには100人以上の申し込みがあるなど、世間からの認識も徐々に変わってきたように感じています。

――そこからYOXO BOXの設立へとつながるのですね。

 2018年前後くらいから、「ベンチャー支援事業」というネーミングが増え、横浜市もベンチャー支援に本格参入し、そこからYOXOに繋がったと思います。

 私はかねてより、ベンチャーが育つには環境が必要ではないかという課題意識を持っていました。エコシステムほどの堅苦しいものではなくても、そこに人と情報が集まり、その情報を基にベンチャーの活動が活性化できるような場所です。自分の中では、ずっとこうした場所を作りたいと考えていたので、自治体や周囲の人に対して、地道に啓発活動をしていましたね。

 ベンチャーが成功するために、最も必要なのが情報です。東京と横浜の違いは、圧倒的な情報格差。その情報がYOXO BOXに集まるようになれば、エコシステムのコアになるのではないでしょうか。

 今はコロナ禍を受けて、セミナーや勉強会もオンラインが主流になってきたとはいえ、限界はあります。ベンチャーには、ネットで調べれば誰でも得られるような情報ではなく、人と人が密につながり、情報交換ができる場が必要です。YOXO BOXはこうしたコミュニティーをつくれる場にしていきたいと考えています。

■多様なバックグラウンドのプレイヤーが集まるオープンなコミュニティーづくりへ

――情報の集まるコミュニティーをつくるために重視されていることは?

 支援する側としては、常に最新の情報が得ることができる環境づくりを最も意識しています。地域のコミュニティーでありがちなのが、コミュニティーメンバーが固定されて最新の情報が出回らなくなってしまうこと。これは、そのコミュニティーに所属するベンチャーにとってプラスにはなりません。地域だけでは情報が足りないので、セミナーや勉強会などのイベントには、在京の企業やグローバルで活動されている方を招くなど、あえて外からの情報を取り入れるように意識しています。いずれは、ベンチャーが成長して、先輩起業家が情報提供してくれるようなコミュニティーへと育てていきたいですね。

 また、コミュニティーの形成で気を付けているのは、特定の人物を中心としたコミュニティーにならないようにすることです。その人との関係性が悪化したらコミュニティーにいられなくなってしまうのは、いちばん良くないパターンですから。

 その点、YOXOのいいところは、4社のコンソーシアムに加えて複数社が運営に携わっていることです。いろいろなプレイヤーがいて、それぞれにいろいろな考え方、ネットワーク、ノウハウ、得意・不得意分野があり、お互いに補える環境になっているので、ベンチャーの皆さんに使い倒してもらいたいですね。

――YOXOが関内にあることの意義、横浜らしさも必要ですよね。

 東京で得られる以上のものが横浜で得られるから価値があるわけで、それがなければ、東京に行ってしまいます。我々のような大企業と地元の支援家がうまく連携することで、閉鎖的にならない、多様性のあるコミュニティーにしたい。限界はありますが、東京に引けを取らない情報、それ以上の価値のあるコミュニティー、ネットワークをしっかり提供できる場にしていきたいですね。

 起業家の成長は、支援家、メンターを含めて、外のプレイヤーがとても重要です。外の支援家の能力次第で、ベンチャーの成長が変わっていくと言っても過言ではありません。情報はすぐに陳腐化してしまうので、常に自分をアップデートしていかなければいけない。ベンチャーは優秀な方が多いので、常に我々が評価されているという緊張感をもって取り組んでいます。

――これからプレイヤーとして関わってもらいたい人はいますか?

 業種を問わず、いろいろなプレイヤーに広く関わってもらいたいですね。国内外に広いネットワークを持つVCや在京の大企業の方、地元のネットワーク、工業団地のネットワークを持つ方など、多様なバックグラウンドの人が関わることで、より強固なネットワークになります。横浜は開港の地ですから、いろんな人がオープンに関与して、新しいものが生まれる場所にしていきたい。そうなれば、自ずと情報も集まるようになると思います。

■ベンチャー支援の機能と情報を可視化していく

――これまで支援された横浜のベンチャーでEXITが見えている企業はありますか?

 横浜ベンチャーピッチに参加した何社かは、上場前の調査の段階に入っています。シェアリングやビジネスモデル、AIなどは東京のほうが強いけれど、リアルテックや医療分野では、もともと神奈川のほうが強い。これまで埋もれていたのが、YOXOやアクセラレーションプログラムによって世の中に注目されるようになっただけです。技術力は十分に高いので、これから伸びていくのではないでしょうか。

 ベンチャーにとって必ずしも上場がゴールではないとは思います。ただ、エコシステム形成の要素として、資金も絶対に必要です。コミュニティーの中で育ったベンチャーが上場したら、きっとそのコミュニティーに恩返しをすると思うのです。エコシステムを循環させていくために、1社でも多く上場する会社を出したいと考えています。

 またイベントによって人と情報が集まり、YOXO BOXのコミュニティーで投資家やメンターたちとつながれる、そこでどんな支援があるのか、という機能と情報の2つを可視化すればコミュニティーは成り立つと考えています。

――コロナの影響でイベントもオンライン化していく傾向がありますが、今後、YOXOの取り組みも変わっていくのでしょうか。

 確かに、リモートワークが加速し、場所が重要な要素ではなくなる可能性もあります。集まるか、集まらないかの2極化は進むでしょう。これまで、投資は面談が基本でしたが、今後は直接会わずにリモートのみでの投資も増えてくると思います。その一方で、会わなくてはいけない状況も出てくるはずです。これまでと違い、漫然とイベントに参加するのではなく、より密な情報を得るためという目的意識を持って集まってくる。そのなかで、YOXOがどれだけの価値を出せるのか。何を提供していけるのかは、しっかりと考えていかないといけないところだと考えています。

 矛盾しますが、その場がリアルでもオンラインでもいいとは思います。ただ、リアルに場があるころが重要。オンラインでは得られない、密な情報や繋がりを求める人が集まる機能を「YOXO BOX」では目指していきたいですね。


【プロフィール】
有限責任監査法人トーマツ横浜事務所
村田 茂雄氏

2005年 信州大学経済学部卒業。中小企業診断士。約10年間の金融機関勤務を経て、2014年に有限責任監査法人トーマツに入社。神奈川エリアのチームリーダーとして、神奈川県内の自治体や大企業と連携して起業家コミュニティーの形成やオープンイノベーションの活性化に取り組んでいる。起業準備者やベンチャー企業に対するビジネスモデルのブラッシュアップや資金調達、販路開拓の多数の実績を持つ。

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