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UPDATE: 2018/07/11

実現してこそイノベーション。大切なのは「場」づくり

慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授 当麻 哲哉さん

-イノベーションとは何なのでしょうか。

まず、イノベーションとイノベーティブの違いからお話しします。どんなに面白いイノベーティブなアイデアが出ても、実現しないとイノベーションにはなりません。アイデアが実現可能なのか-ということはすごく重要です。また、革新的な提案に対しては現状維持を唱える反対派が出てくるものです。そこに打ち勝って世に出していくのがイノベーション。賛否両論は常にありますが、どう議論して納得させていくか、つぶされずに生き残っていくかが大切です。突拍子もないアイデアがいろいろ出てくると思いますが、そうした若い人たちの「伸びゆく芽」をつぶさないこと。そのためには「対話・発信の場」が必要です。彼らが堂々とアイデアを言えて、ポジティブに助言をしてあげられる…。世代を超えて対等に意見を言い合える場づくりは、簡単ではありませんがとても大事なことです。

こうした活動をしていくと、どうしても若い人中心になりがちですが、ぜひ経験豊富な年配の方々が自然な形で場づくりに加われるといいですね。例えば、「ガジェットまつり」はとてもいいと思います。子どもからお年寄りまで多くの人々が集まる、そうしたオープンな雰囲気はとても大切です。横浜の良さなのかもしれません。そして、若い人たちのアイデアが面白いと思ったら、支援してあげてほしい。資金だったり、パートナー探しだったり…。若者をぜひ世の中で活躍する人物にしてあげたい-とサポートする人たちが生まれるといいなと思います。

-研究のテーマについて教えてください。

いくつかありますが、私が長年取り組んでいるのは光通信です。その媒体を研究してきました。具体的には光ファイバーの素材ですが、ガラスではなくプラスチックを基本としてきました。インフラではガラスで十分ですが、折れやすいので扱いが大変です。建物の中や室内での使用には向いていない。効率は良くないが、わざわざ電気信号に変えています。ですから、高速通信を建物内で使うには折れにくいプラスチックの光ファイバーを-というわけです。最近では病院の中で使ってもらっていますね。内視鏡で映す画像も4K、8Kと高画質化しており、また使うときは床にはわせないといけない。折り曲げても踏みつけても、通信が途切れることがない。そうしたことに対応するためです。

ところがちょっと残念なことに、私の研究室の学生は、そこにはあまり興味を示してくれないのです(笑)。理系の学生は別ですが。私の研究室は、コミュニケーション・デザイン・ラボといいますが、ここに来る学生は、通信(コミュニケーション)より、どちらかというと人と人との直接的なコミュニケーションに興味があるようです。

ですから、学生たちは地域活性化や教育、ヘルスケアなどに取り組んでいることが多いですね。いくつかご紹介しますと、地域活動の一つは小田原のみかん農園のサポートです。栽培作業は大変で、高齢化が進むと耕作放棄地が増えてくるし、その影響で鳥獣被害もかなり出ている。その対策に小田原市と一緒に取り組んでいます。例えば、就農したい若者にそういう土地を提供できないか-などを検討しています。それには地元の人たちと良好な人間関係を築いていかなければならない。それが学生たちの研究テーマにもなっています。もちろん、農園をどうするか-という研究もしており、メインは、みかんをレモンに代えることです。地元の研究会の皆さんと一緒に取り組んできました。レモンの木には鋭いとげがあるので、みかんに比べて鳥獣被害に遭いにくく、高く売れるし、栽培に手間が掛からないし…良いことずくめです。耕作放棄地の利活用に適しているという研究結果をもとに、土地も借りてレモンを植樹したところです。

また、「ムーミンパーク」がまもなく開園する埼玉県飯能市でも、耕作放棄地の問題があり、SDM(システムデザイン・マネジメント)の修了生が借り受けて、無農薬野菜を作る場としてビジネスを始めています。また、地域創生研究の一環で、教育にも関わっています。若年層の流出を食い止めたい飯能市から依頼を受けて、高校生に地元の良さを再認識してもらうワークショップなどを行って、チームワーク、アイデア提案力、プレゼンテーション能力を高める教育を実施しています。

 ■社会のために何ができるか考える、大事なのは観察すること

-それもSDM思考の一環なのでしょうか。

扱うテーマは多岐にわたりますが、SDMではそれぞれの学生や研究者が持つ専門性を横断的に使いながら、外部とも連携して「社会のために何ができるか」ということを研究しています。そのプロセスにおいて、論理的思考やデザイン思考を大切にしています。

飯能市の高校でのワークショップも、普通の授業では面白くないですから、SDMで実践している思考方法でアイデアを出すところから始めました。ここで特に大事なのは、現場をよく観察することです。まず現状をきちんと見つめ直すわけです。地元の人の目がよく行きやすいのは、悪いところやつまらないところ。そこをどう考えたらポジティブになるのか-という教育をしています。例えば、一昨年学生の発案で実施したワークショップでは、自分自身の長所と短所を挙げてみる。その欠点を他の人から「考え方によっては長所だよね」と言ってもらう場をつくって、自分がネガティブだと思っていた点をポジティブに解釈させる訓練をする。その後、街に出ていくと「ここって悪いと思っていたけれど、意外といいじゃないか」と見方が変わってくるわけです。それで「良いところ探し」をして観光マップを作ると、地元の良さを再認識するようになります。大学進学や就職で都会へ出て行っても、いつか地元に戻ってきてくれる-そういう教育を続けています。

-大切なのはポジティブ思考ですね。ほかにはいかがですか。

研究室では、「場の良さ」とは何か、どう評価したらいいのか-を研究している学生もいます。まだ基礎段階ですが、これまで場について明確に記載している論文はとても少ない。定量的に測定しているものがほとんどないのです。

このほか、個人が物事に対してどう反応するのか、生体反応を捉える研究もあります。「感性を捉える」のがメインで、理工学部の先生と一緒に、脳波を測って感性を分析する装置(感性アナライザー)を使って取り組んでいます。例えば、人が話している時の感性の変化を捉えてみました。すると、(同じ立場で)自由に話すと「興味、好き嫌い」などの感性が同期する一方、インタビューなど質問する人・答える人など立場に違いが存在すると、同期せずに感性が逆転することもあります。

さらに昨年は救急医療のAED(自動体外式除細動器)を使った研究を行いました。街角で見知らぬ人が倒れたらAEDを持ってきますよね。でも、結局ほとんど使われないのが現実です。見ず知らずの他人の服を脱がさなくてはいけない、救急車が来るまで待っていよう、へたに使って死なせてしまったら大変だ…など、普通の市民が使おうとすると、大きなストレスがかかります。どうしたらストレスを下げられるか、対策を考えたわけです。学生の提案は、AEDのふたを開けると医師と通信ができる仕組みにすることでした。実験の結果、医師の声掛けがあると、かなりストレスが下がることが感性アナライザーの測定で分かったわけです。

-本当に幅広いですね。

先ほどお話しした飯能市の研究では、この感性アナライザーを使って外国人観光客が何に興味があるのか調べています。ムーミンパークを訪れるだけではなく、市内の良いところを見て体験してほしい。でも、外国人観光客が好む場所はどこなのか。感性アナライザーで興味度を調べると、日本人観光客とは違うことが分かってきました。それなら、外国人向けのツアーがあってもいいし、ホームページやパンフレットも、翻訳するだけではなく、ニーズにあった情報を提供できるようになります。これは「観光」と「感性」の結び付け-“かけ算”の例とも言えます。テーマは無限大ですね(笑)

-横浜とイノベーションの話もまさにそうですね。

横浜ではすごい“かけ算”ができると思いますし、ぜひそういう活動をしてほしいと願っています。各企業はそれぞれの特徴を持っていますが、これがコラボしだしたらすごく面白いはずです。東京では、霞が関や丸の内、銀座、秋葉原など地域によって似通った産業が集まっていますが、かえって多様性に欠けています。ところが横浜は違います。みなとみらい(MM地区)ではさまざまな分野の大企業が徒歩圏内に集積している。この集積をうまく使って“かけ算”すると、ものすごい事になると思います。

いま政府も兼業とかセカンドキャリアについて(取り組みを)進めています。残業も段々しなくなってくる…となると、定時後の場をつくってあげて、そこが他企業の人たちとのネットワークの場になるといいと思います。企業によっては働く時間も自由というところもあります。自分の仕事さえこなしていれば、どの時間帯で働いてもいい。昼間でも好きなことができるわけです。これからそういう企業が増えてくるのではないかと思います。そのとき、終業後に気軽に寄れる場、集まれる場があれば、ずいぶん違うと思います。

大企業中心のMM地区と中小企業やベンチャーが多い関内地区。隣接していますから、うまくコラボできる場があればいいですね。

■良いアイデアは「オフ」から。横浜をグローバルな発信の場に

一生懸命考えても出てこなかったアイデアが、「オフ」になると出てくることがありませんか。例えばお風呂で、新幹線や飛行機の中で…。たぶん、集中している時は脳のある部分だけが活性化していますが、脳のネットワーク全体がつながり合った時に新しいアイデアが生まれるのでしょう。職場から離れた「オフの場」で、いろいろな人と話しているとアイデアが湧き出てくると思います。

光ファイバーでも面白いことがありました。異業種交流の集まりの場で、ボールペンのメーカーの方と光コネクターの会社の方が、光ファイバーを研究していた私の恩師の先生と話をしていた時のこと、ボールペンの先端の金属球をガラスビーズのレンズに置き換えて、インクチューブに光ファイバーを差し込めば、専門技術が不要な非接触でつながる光コネクターができるんじゃないか、という話になった。お酒の席でしたが、彼らはその場で一生懸命アイデアを書いていました(笑)。その後そのアイデアは実現して、すでに試作品もできています。その飲み会の直前まで技術交流会があって、さんざん議論をしましたが、そういうアイデアは出てこなかったんですよね(笑)。やはり大事なのは、そういう「オフの場」だということですね。

お酒の席でなくても、教育の場でもいいと思います。私たちの大学院ではいろいろな企業から社会人が学びに来ていますが、授業のオフの時間に学生同士がつながり合って、「今度新しい会社をつくることになりました」という例も多いです。そこまで授業では教えてないのですが(笑)。そうしたきっかけになる場があればいいので、別の目的で集まっているがオフになる合間がある-そうした時に何かが生まれるのではないかと思います。

-最後に、これからの横浜に期待することは?

横浜は開港の歴史がありますから、外国への「発信の場」であってほしいですね。ここから生まれた成果が海外へ、逆に吸収する場であってもいい。海外の人を呼び込み「オフ会」を開くのも面白いし、グローバルな場になれば、それが横浜らしいのではないかと思います。ほかにも、例えば横浜市の姉妹都市が一堂に会して展示会などを開くとか…。地元のベンチャー企業にとって、とても良いアピールの場になるのではないでしょうか。グローバルな横浜に大いに期待しています。

(横浜市港北区の慶應義塾大学日吉キャンパスで)

【プロフィール】
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授 当麻 哲哉さん

東京都出身。1988年、慶應義塾大学大学院理工学研究科応用化学専攻修士課程修了。住友スリーエム、米国3M本社を経て2008年から現職。開発技術者として、新製品の市場導入など数多くのプロジェクトを成功させる。専門・研究分野はコミュニティ(特に医療、教育、地域)のためのコミュニケーションデザインとプログラム&プロジェクトマネジメント。
参考:慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科

 

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