Navigation Button

UPDATE: 2018/08/27

アントレプレナー(起業家)教育への取り組み

横浜国立大学 成長戦略研究センター教授
為近 恵美さん

■イノベーション創出の拠点へ。ベンチャーも次々設立

 -イノベーションをどう捉えていますか。
私が考えるイノベーションとは、一言で表現するなら「社会変革を起こす」ことです。当初は「技術革新」と訳されていたこともありましたが、必ずしも新しい技術でなくてもいい、新しい価値を創造して社会を変えることだと。例えば技術と流通だったり生産方式だったり、いろいろな組み合わせ「新結合」によって、何か社会が変わる-それを社会変革と言っていますが-そこまで行かないとイノベーションとは言えないと思っています。例えば、カメラ。いくら小型化してもそれだけではイノベーションとは呼べませんが、それが携帯電話やスマートフォンに載ることで、格段に用途が広がり、インスタグラムのように広くSNSにも使われるようになる。昔のフィルムをプリントして…という時代から、デジタル化による変革がおき、小型化によるスマホへの搭載で、これまでになかった新しい文化が生まれているわけです。
スマホへの搭載まで行けば(変革が)すごくはっきりしていますが、考えてみると、フィルムカメラからデジタルカメラに変わっただけで、現像やプリントをしなくて済むようになり、その結果、写真に対するハードルも下がりました。世の中の人たちがたくさん写真を撮るようになり、プリントも不要で気に入った写真だけをデジタルデータで残す…という風に社会が少しずつ変わっていく-。そこには確かに技術が入っていますが、例えば「アマゾンの流通革命」を見ると、どちらかというと技術よりはシステムを変えていくことで、明らかに社会変革を起こしています。こうしたものも含めてイノベーションだと捉えています。
 -成長戦略研究センターの取り組みを教えてください。
本学の「成長戦略研究センター」は、2011年に企業成長戦略研究センターとベンチャービジネスラボラトリーが一緒になって生まれた全学教育研究施設です。5つの部門がありますが、その中で、「イノベーション創出の拠点」を目指しているのがベンチャービジネス部門。アントレプレナー教育やインターンシップなど、幅広く実践的な教育を行っています。大学発ベンチャーの育成・支援プログラムや、学生が主体となりアイデア・ノウハウを持ち寄る活動をサポートする仕組み、ボストンに約1か月間滞在して自分の研究テーマに沿って活動するプログラムなど起業家型人材の育成に力を入れており、成果の一つとして、大学のシーズによるバイオ関連のベンチャー企業などが設立されています。
もう少し詳しく説明しますと、ベンチャービジネス部門は元々、ベンチャービジネスラボラトリーという組織が基になっており、どちらかというと理工系中心の組織でした。そこに、文系の企業成長戦略などの研究者が一緒になって、言わば分離融合の形で当センターが成り立っています。
ベンチャービジネス部門では「拠点」として幅広い取り組みを行っているわけですが、やはりメインは、授業を通じた学生に対するアントレプレナー教育です。具体的には、学部生に対して全学教育科目として「アントレプレナー入門」という授業を行っています。大企業に就職する場合にも考え方として必要なアントレプレナーシップ教育を行うのが目的です。一方、大学院生に対しては、博士課程前期で「イノベーションと課題発見Ⅰ・Ⅱ」「イノベーションと起業Ⅱ」(横浜発ベンチャーインターンシップ)という講義を提供しています。ここでは、最先端の研究や事業に携わっている方々を外部講師として招き、より実践的な授業をしているほか、起業家へのインタビューも行っています。Ⅱの講義では、最終的に自分の研究テーマを基にしたビジネスプラン作りを指導しています。また、インターンシップでは、ベンチャーに限らず大企業や国の機関なども含めて新しい事業を作ろうとしている組織で、「新たな事業化」をテーマに学んでいます。実際に学生が通いますから、横浜市内を中心に近隣自治体や企業と連携しており、今後、横浜市ともさらに協力を密にしていきたいと考えています。
 -実践的で、かなり密度の濃い内容ですね。
学生側も真剣に取り組まないと、生半可ではできない内容になっています。インターンシップは、約1カ月半、トータル210時間を企業での実習に当てますから、単なる体験型の実習ではなく、何か一つでもやり遂げることを目標にしています。前身であるベンチャービジネスラボラトリーの時代からの実績としては、日産自動車のような大企業も含め、幅広い分野の企業に協力いただいています。(企業側の)負担もかなり大きいと思いますが、少しは役に立てていただけるのではないか-とも思っています。
ここまでは、多くの学生たちに講義をするという取り組みです。これを一つ目の柱としますと、次の柱は「大学発ベンチャーの育成・支援」です。学生や教員たちのフェーズに応じた起業支援に取り組んでいます。フェーズⅠでは学生や大学院生に対して、しっかりとしたビジネスプランを作るなどの指導をしています。さらに、フェーズⅡでは、実際に登記を目指して法人設立計画を支援しています。学生だけでなく対象には教員も含めていますが、これは大学が持つ技術シーズを基に起業する-という「大学発ベンチャー」の創出を大きな目的にしているからです。昨年から現在にかけて支援中の2件は、どちらも支援が始まってから法人登記にこぎ着けています。過去の例の一つに、2014年に設立された「横浜バイオテクノロジー株式会社」があります。これは本学の研究室に所属している研究員が、そこでの研究成果-つまり、大学の持っている技術-を基に、育成事業を経て起業した例ですね。これからも、こうした成果を一つでも多く出したいと願っています。

■イノベーションにつながるグローバルな人材育成も

三つ目の柱は、講義の枠を超えた幅広い「イノベーション人材の育成」です。これは、起業を考えている学生に、ワンステップ上の機会を提供するものです。取り組みとしては、学生が中心となってアイデアを持ち寄り活動するための枠組みを提供する「イノベーションプラットフォーム」、グローバルな人材の育成を目指す「ボストン・チャレンジ・プログラム」があります。後者については、学内公募で選ばれた大学院生がケンブリッジ・イノベーション・センターというベンチャーの拠点に1カ月間滞在して活動するものです。海外の大学に籍をおいて学ぶような通常の海外留学とは全く異なり、自分であらかじめテーマを設定し、それに沿ってさまざまな企業や大学、組織などへ自分からアプローチして、研究を進めるというプログラムです。また、単にグローバルな人材を…というだけでなく、最終的にイノベーションにつながるようなテーマを持った学生に、起業するための事前調査を含めた活動をしてもらう-というイメージで行っています。つまり、自分の持っているシーズをどう生かせるか、ボストンで調査する-ということです。既に4年目が終わりました。かなりハードルは高いですが、帰ってきた学生は確実に成長していますね。

■「産官学」が協力し多様性を活かした「共創の場」に期待

 -このほかの取り組みについても教えてください。
横浜をイノベーション創出の拠点とするためには産官学の連携、協力が欠かせません。本学では公開セミナー「みなとみらい産官学ラウンドテーブル」を2008年から開催、回数もすでに30回を超えました。自動運転、IoTなど回ごとにテーマを変えていますが、毎回本学の教員に加え、それぞれのテーマに沿った外部講師を招いています。横浜市内の中小企業など幅広い方々に参加してもらい、講義だけでなくディスカッションも行っています。今後はさらに横浜市とも連携を深めながら開催していきたいと思います。
また、幅広い年代の教育にも取り組んでおり、横浜市内の中学生を対象にした「起業家育成プロジェクト」に協力してサマースクールを実施、教員だけでなくグループワークではファシリテーターとして学生も参加し、刺激を受けています。
 -イノベーションと、今後の横浜の持つ可能性についてどう思われますか。
今後は、自治体や周辺企業、大学が、互いの多様なシーズやニーズを持ち寄り、議論していく場ができたら-と。例えば、横浜市が関わっている「ガジェットまつり」という催しがありますが、本当に活気がありますし、私自身参加してみて、いろいろな可能性を感じてきました。ぜひ学生にも、あの場の雰囲気に触れてほしいと思います。さらに、常に存在する「場」があれば…。先ほどお話ししたケンブリッジ・イノベーション・センターですが、活気あふれる、新しい事を起こす力を持った「場」だと思います。まさに「共創の場」ですね。それと同じ意味を持つのが、「イノベーターズコミュニティ」だと思います。非常に大きな可能性を感じています。
多様性の中でこそ新しい物事が生まれてくるはず。その意味でも、横浜市が進めている恒常的な「共創の場」に、大きな期待を持っています。まさに「横浜発イノベーション」の場づくりですね。当センターとしてもぜひ関わっていきたいです。
(横浜市保土ケ谷区の横浜国立大学で)

【プロフィール】
横浜国立大学 成長戦略研究センター教授 為近 恵美)さん
静岡県出身。東京都立大学大学院博士課程(物理学専攻)修了後、NTT(日本電信電話)入社、LSI研究所配属。半導体、光通信、マイクロセンサ等の研究に従事した後、NTT先端技術総合研究所企画部にて情報戦略担当部長として、研究広報に携わる。2013年NTTアドバンステクノロジ(株)に転籍、経営企画部技術輸出管理室長を経て、2017年より現職。イノベーション人材の育成に注力している。

SEE ALSO