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UPDATE: 2018/07/12

連携で生まれる技術が変える未来

日産自動車アライアンス コネクティドカー&モビリティサービス事業部 モビリティサービス部
主担 三好 健宏さん

◇技術ではなく「価値」を考える それがイノベーションのヒント

-三好さんにとってのイノベーションとは?
以前、他の企業のイノベーターの方や手法論を研究されている先生と議論をしたことがあります。私はエンジニア出身で今は新事業企画をやっていますが、その経験を基にお話ししますと、かつては世界で一番の技術を作れ-という技術主導のアプローチでした。例えば、一番硬い鉄を作るとか軽い材料とか強い磁石とか…。それは、それぞれ衝突に強い車だったり、軽い車だったり、EV・電気自動車の性能向上につながったりする要素技術をつくれ-というアプローチ。どちらかと言うと技術を開発することが目的で、商品はいわば手段でした。
ただ、新しく通信を使ってサービスを提案しろとか、燃費以外の商品力のある自動車とは何かとか、自動運転のある社会の未来を描け-とか、最近はそうした抽象的なお題になってきた。ここ5年ぐらいでしょうか。昔は技術をつくれば自然と商品は付いてきましたが、今は答えが分からない。例えば、硬い鉄なら基準がはっきりしている訳ですが、今は物差しがそもそも分からない。とびっきりの未来って何?-そういう風に変わってきていると思います。ですから今は、どちらかというと技術は一手段で、大事なのは「何をつくるか」-に変わってきている。
 -つまり価値の転換が起きているということですね。
今までは自動車業界のエンジニアというと、一番偉そうにしていました(笑)。日本の産業を見ると何となく同じような印象をお持ちだと思います。「日本は世界に誇る技術がある」-という…。サービスというより、技術力が一番というイメージです。
ところが例えばアップルは、技術は買ってきて自分たちは商品企画をやってユニークなものをつくらせる。ないもの(技術)は買収、買収、買収…。つまり技術は手段になっている訳です。一番大事になるのは「人の生活」とか「価値観」とか、世の中で次に何が一番求められているのかを見いだした人が、「ありもの」を使って…という時代なのかな、と思います。

◇技術進化は目的なのか手段なのか

ご存じかも知れませんが、新聞で見てびっくりしたのは、学生社長の家電スタートアップでした。その人は企画に専念し、工場や倉庫は外部でやることで成功しているだとか-。たぶん目の付け所が違うものを企画しているのでしょう。これが昔の価値観だと、例えばエンジニアは「自分で汗をかいて、いい商品を作ってなんぼだ」と考えると思うのですよね。でも、今はいかに早くタイムリーにやるかという方が大事で、「10年間かけて作りました」という時代ではなくなっています。
では、実際に自動車で何が起こっているのか-。よく耳にする「自動運転」について、恐らくこんな事をイメージされているのだと思います。「完全自動運転」で、車の中で寝たり、お酒を飲んでも帰れます…とか。また、ハンドルがなくて全部に音声で…とか、いろいろなビッグデータで自分の好みを知っていて提案してくれます…と。たぶん皆さん、そうしたイメージお持ちでしょうし、映画で見たことがあると思います。
ですが、実はそれはすでに世の中にあって、普通のタクシーがそう。運転しないでいいし、「ちょっといいところに連れて行ってよ」と言うと勝手に行ってくれるし、気を利かせていろいろサービスしてくれる。単にドライバーが機械に代わっただけでは新しい価値ではないと思います。技術進化が目的だとすると、それは素晴らしいことですが、商品として見たら、今のタクシーの後部座席と何も変わりません-ということです。ここまでは前段です。技術ではなく人と商品を考える。それがイノベーションのヒントだということです。

◇人の行動をアクティブに、モビリティの持つ価値

モビリティの価値で面白いのは、車のある人とない人でどちらが歩きますかというと、実は持っている人の方が歩く-というデータがあって、場合にもよりますが、ない人は概して動かない。ポイントは、車は「人の行動をよりアクティブにしている」という点で、車がある人は、車があるから気軽に出掛けるし、行った先で、より歩く。私がお伝えしたいのは、まさにこの点で、これがあることによって行けなかったところに行ける-。そうしたことを考えた商品でないとダメだなと思っています。さらにどこに行くかではなく、何をしに行くかが大事な点です。
かつてモーターショーで私が提案したものなのですが、例えば、お祭りのときに浴衣の若い二人が自由に移動するというのは難しいじゃないですか。それが気軽に使える自動運転モビリティがあれば、自分たちのペースであちこち行ける。言い方を変えれば、こういうのがなければ出掛けなかったような人たちが、もっと積極的に街を楽しむ-。こうしたものが、ただの置き換えではない  「新しい価値」ではないかと思うのです。
若干余談になりますが、現在、建築家の先生と瀬戸内海の離島の暮らしを変えられないか-という話をしており、この文脈で「チョイモビ」の試乗会を実施しました。よく自動運転は高齢者で免許返納の人を助けてあげられる-という話がありますが、自分の理解だと、それでは先ほどのタクシーの話と一緒で現状維持というか、消極的なソリューションだと思います。先生の話では、確かに高齢者は多いけれど、この島は風光明媚でワイナリーもあるなど「サンクチュアリ」だと…。この価値を上げたい-こうおっしゃるわけです。それは、われわれのビジョンと合うのですごくいいなと思います。少し先走りましたが、いまは都市と人の暮らしと技術をどう変えるか-ということについていろいろ話をしているところです。

■モビリティと都市の未来
◇未来の都市を考えてみる 街をどう変えたいか

今後モビリティが進化すると、カーライフの変化にとどまらず車の変化、極端には土地の価値も変わってくるのではないかと思っています。駅から徒歩10分、15分以内と以上では価値がガラリと変わりますね。だから駅前タワーマンションに一極集中し、徒歩30分の物件は0点だ…(笑)。ところが、モビリティがこうした所へ気楽に連れて行ってくれると、離れたところでも価値が変わってくる。
今の日本の街並みは大きく2つ(に分かれる)と思います。電車で便利な「駅前・タワーマンション」パターンか、車で便利な「インターチェンジ周辺の○○モール」パターンか…。そして昔の繁華街はだいたい寂れて…という感じだと思います。モビリティサービスがあれば変わるというか、ある種新しい線路を敷くことに近いことだと思います。意思を持って都市計画と交通計画を組み込めば、よりフレキシブルに街を変えられると思っています。
これまでの議論は単に渋滞が減るとか緑が増えるとか…。それだけだと何だかなぁ、という感じがします。だから「もっと違う世界があるのでは?」と投げ掛けているわけです。それはディズニーランドのイメージに近い。ああいう施設は遊ぶならいいのですが、住みにくいわけです。単純に合理性だけでいえば、理路整然と建ったマンション群の方が便利です。でも技術の進化で一見(ディズニーランドのように)「不便だけど効率は変わらないという世界があるのではないか」と思っているわけです。モビリティによってさまざまな所に運んでくれる、その結果、一極集中を分散した方が街としても人の流れとしても多様性があっていい…そんな世界をイメージしています。

◇未来の横浜を考えてみる 街はどう変わりたいか

以上を踏まえて、行政の方と未来の都市についてディスカッションしました。先ほどの話の延長で、「技術も変わっているから街も変われるのではないか。では一体街はどう変わりたいのですか?」「変化を実現するには、もう大企業だけではなく、いろいろな新しい人の力を借りられるのではないか」-と話をしました。
-「どう変えたいか」というのは大事な視点ですね。
「地域がどう変わるか」というのは大切な視点で、単に置き換えるのではなく、大事なのは行かない人をそこへ連れて行く-という方で、その積み重ねで街が変わるのではないか思います。
実際、行政の方から話を聞くと、横浜は元々ユニークなところを目指していた…と。テレビドラマの撮影舞台となったり、日本で初めてF1を(街の中で)走らせたり…。「みなとみらい」は、昭和45年の構想段階で、「ゆとりのある空間」「豊かな緑」「働きやすい職場空間」をイメージしていたという先見性にびっくりしました。

-横浜の未来像をどう描かれていますか?
スタートアップが増えつつある関内に新しいモビリティは合うのではないか-と。市としては、滞在する人を増やしたいというのです。横浜はよく知らないけど良いお店に連れて行ってくれるモビリティがあれば、その結果、また人が横浜に来て…といった循環が生まれないかなと思っています。
その他大黒ふ頭のアクセスをよくしたり、横浜駅の東西をつないで交流を生むようなものがあったり-とか、そういうものにならないかなと思っています。車がいいのは、バスや電車と比べて量ではかないませんが、例えば毛細血管のようなイメージで地域をつないでいき、血行が悪いところを改善していくところ。
例えば、多少不便な場所に公園があっても(モビリティで)景色の良い公園に連れて行ってあげる-、そうした「人と場所つなぐ」ことを通じて活性化できる地域があるのではないか。市のどこを活性化させれば良いのか、そうしたことを今、まさに議論しているところです。

■スタートアップへの期待 目指すは「シリコンバレー越え」

 -新しい人の力を借りるとは?
具体的にどう借りるかというと、ちょっとヒントがあって、企業とベンチャーをつなぐ企業の方から教えてもらったのですが、ドイツのシュツットガルトにすでにそうした取り組みがあるそうです。そこではベンツやポルシェの工場があって、スタートアップの人たちにディスカッションしたりイベントを開いたりするような場を提供して(企業間を)つなぐ試みです。新鮮だったのは、日本であればそこで生まれたビジネスはベンツのもの-という発想ですが、そうではなくて、育てた結果、それが他社に行ってしまってもよしとするという、オープンな考え方でした。

-スタートアップも何が育っていくか見通せないのでは。
たぶん最近スタートアップが話題になるのは、チャレンジの数が大企業の何百倍、何千倍…とあるからだと思います。それでいつも思うのは、(野球の)イチロー選手です。それまでは大事なのは打率だったじゃないですか。それをイチローがヒット数を言い出した。それと一緒で企業だとどうしても打率を狙いますよね。いかに失敗数を減らすか。それって、打席に立たない方が打率は高いじゃないですか(笑)。スタートアップの人たちは、イチローみたいに1本でも多く当たる方がいい。もちろん打率を見たら大企業より低いかもしれないが、そういう人たちが打席に立ってこつこつヒットを打つ、ホームランに確実性を求めるから、なかなか日本は勝てないのかな…と思います。
自動運転の社会実装は一つの会社の力だけでは難しいので、スタートアップと協業も視野に入れて議論中です。横浜市のイノベーターズコミュニティが「シリコンバレー越え」を実現できるように議論を加速させたいですね。

 

■イノベーションへの想いが横浜を変える

 -社内でもこうした議論は活発に行われているのですか。
私の想いの方が強いですかね(笑)。もちろん認知はしてもらっていますが、まだ企業として投資できるレベルまで具体性が上がっていないので…。どの業界でもあると思いますが、どんなアイデアであっても(当初は)上司に認められるレベルまで想いが育つにはギャップがありますよね。イノベーションはその時期をいかに温かく見守ってもらい、育てられるかが勝負かなと思っていますけど(笑)。もしかしたら無駄かもしれないが、より具体性が上がれば変えられるヒントになるのではないか。
また、変えようと思うには社会の理解が必要になります。なぜなら、ハイブリッドや電気自動車はわれわれの都合でできますが、自動運転は法律を変えないといけないから。法律は、会社がもうかります…といったロジックだけでは変えてくれないと思います。例えば、エネルギー問題や事故を減らすなどの理由で、自動車を減らした方が良いと思う人もいる。でも100か0かではなく、(社会にとって)新しい最適値で設計することが大事なのではないかと思います。
それをわれわれだけでは議論できないので、まさに行政の方とかから経済や観光などの目線で補強してもらうと、「それなら法律を変えよう」となるのではないか-。そういう「ビッグピクチャー」は妄想と紙一重です(笑)。でもわくわくしますよね。五輪などのイベントもありますが、何がきっかけで変わっていくか分からないですね。
(横浜市西区の日産自動車グローバル本社で)

【プロフィール】
日産自動車アライアンス コネクティドカー&モビリティサービス事業部 モビリティサービス部

主担 三好 健宏さん
京都府出身。東京大学生産技術研究所 マテリアル工学科修士。本田技術研究所で車体の軽量化やF1電動パワートレインの高出力化などを研究。その後完全自動運転のコンセプトカーを東京モーターショーで提案。現在はルノー日産三菱アライアンスで"自動運転のその先を創造する"をミッションとし、新たなモビリティサービスの社会実装を目指し活動中。

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